<No.005> 青空に消えた笑顔  2008年 8月7日

  突然、大学の後輩のことを思い出した。

 場所は、東京の新橋だか、銀座だかで、やはり、夏のころだったと思う。あたりはアスファルトやらビルからの照り返しなんだろうか、とても眩しい光の中でやつは笑っている。路上で、別れの挨拶をかわしているところだろうか。私の脳裏にくっきりと焼き付いている笑顔。優しくて知的な感じのする笑顔。よく笑うやつだった。また、こうやって、いっしょに遊べることを疑わず、「じゃ、またな〜」と、別れた。お気に入りの甘味所で、かき氷でも食べた後だったろうか。

 その後すぐに、T大学付属病院に入院したと聞いたが、すぐに退院すると思っていた。だから、見舞いにもいかなかった。まさか、あれが最後の別れになるとは考えもしなかった。そういえば、一度やつが珍しく不機嫌な顔になって、その病院の医療過誤を吐き捨てるように口にしていたのを思い出す。

 天下のT大学付属病院に通院して、ずっと難病とたたかっていたらしいが、私はどんな病気であったかを聞くこともなく、また、彼から話されることもなかった。いつも笑顔ではあったが、その顔には、ほとんど贅肉はなく、骨ばっていた。

 いまさらながら、お見舞い行けばよかったと思う。やつが死んでから、20年くらいもたつというのに。急にやつのあの最後の笑顔が浮かび、自然と手を合わせ、お経を読むこととなった。こういう時は、胸にぐっとくる。胸には、心臓やら肺やらがあるだけで、感情は脳がつかさどっているのは、百も承知だが、頭にはぐっと来ない。やはり、「胸」に、ぐっとくる。。胸に、感情をつかさどる何かが絶対にあるよな。

 手を振りながら、青空へ消えていくやつの姿が見える。若い奴が、なんで死ぬかな。にしても、同調しないでお経を読むのは、私にはたいへんなことだ。胸にこみあげてくる感情を抑えるのはたいへんだ。涙なんか流したらだめだめ。ふーたいへんだ。 

 電話に出ると、息子から夕日がきれいとのこと。あぁ、夕日がきれいなときって、天にのぼる時なのかな。今日は、昇天日和でした。




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