【いすぅつ(磯津御嶽)】

<祭 神> りゅうぐう神様(航路の神様)

 沖縄旅、大和旅、唐旅、そして、戦場への旅というように、旅はそれぞれの時代相をもちながら変わっていったが、人々は、昔から航海の無事、旅の無事をこの御嶽で祈ってきた。
 旅に出る者は、いびの前の砂をお守りとして携帯した。このような呪物信仰が見られる御嶽はここだけである。
 この個人のお守りとして携帯する習慣は、さきの大戦を境にしてなくなった。

 『狩俣のある男が、上国船の水夫として沖縄旅に上った。男には七つくらいの男の子がいた。男の子は父が作ってくれた玩具の舟をいつも大事にしていた。父のいない寂しさを、その舟に乗って父のもとへ行くことを夢見て、まぎらわすこともあった。
 ある日玩具の舟に御嶽の小石を乗せ、いすぅつの海で走らせて遊んでいたところ、舟が沖の方へ流されてしまった。びっくりした男の子は舟の後を追って必死に泳いだが、舟にとどくことはかなわなかった。それでもなお、父の作った舟を追いかけた子は、力尽きて、途中でおぼれ死んでしまった。

 舟は幾日かたって那覇の海辺に流れ着いた。海辺を家族を想いながら歩く男。ふと見ると、わが子に与えたあの玩具の舟。不吉な予感。公用を終えて急ぎ帰ってきた父を待っていたのは、無情な出来事。。。

 子を失った男は、悲しみにくれながらも、子供の玩具がわがもとに流れ着いたことに、いすぅつ御嶽の小石の霊験をひしと感じとった。無垢な男の子の父と会いたいという願いを死してなお、りゅうぐう神がかなえてくれたのだと。そして、その舟は、父を慕う男の子の魂を父のもとに運んできたのだと。

 このあと、村人達は、いすぅつの石や砂を船守りの護符として持つようになったという。。』





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