運命の事故―家族を失う覚悟

 まるで、スローモーションでした。

 時間がコマ送りのように進んでいく感じです。「あああぁ、だめだーーー」私は、別な車が、私たちの車のよこ腹に突っ込んで来るのが見えました。ひざの上の息子をぎゅーーと抱きしめましたと思います。

 どんどん近付いてくる車。私は、最後の衝突まで見ていました。その車を運転していたおばさんの顔まで見えました。

「この車、ブレーキふんでない!」と思った瞬間。

 すさまじい回転。私の視線は車内へ。遊園地のコーヒーカップなみにまわる車内。コーヒーにミルクを入れかきまわした時のように、どんどんぼやけていく車内の風景。そして、暗闇・・・

 ・・・遠くから、声が聞こえる。???「た・す・け・て」???「・・・たすけて・・・」???「たすけてーーー!!!」

 はっとして、飛び起きる。「たすけええてーーーーー!!!!」声の主は、ふくちゃんだった。「おかあさん!!!!!」(息子が生まれてからふくちゃんをこう呼ぶことが多くなった)交通事故にあったということにショックを受けうろたえた私の声。

 私は、気絶していたらしい。ふくちゃんが呼んでいる!私は、頭を打っているみたいだが、私のことなんてどうでもいい!ぼんやりした頭をこれでもかというくらい振る。ふくちゃんはどこ!?どうもみんな車外に放り出されたらしい。足を引きづり、声のした方へ近づく。

 そこで見たのは私たちが乗っていた車の下敷きになっていたふくちゃんだった。エンジンが、かかったままになっていた車が、ふくちゃんを今にも飲み込もうとしていた。

 いそいで、車のキーを回してエンジンをとめ、車に半分飲み込まれているふくちゃんを引きづり出そうとした。一人では、無理。「だれか、助けて!」道案内の女の子と二人でやっとのことで、車を動かし、ふくちゃんを路肩に運ぶ。

 息子はどうした!他の女の子たちは?!運転手の女の子は、路肩で泣いていた。事故にまきこまれたショックで車のエンジンを止めるこころの余裕もなかったようだ。一緒にふくちゃんを助けるのを手伝ってくれた女の子も、気分がわるくなって路肩でうずくまっている。もう一人も同様だ。

 息子がいない。息子がいない。。どこいった!

 息子は、一人路肩にある高さ1mくらいのコンクリートの畑の土止めの上で顔を押えていた。いそいで、近づいて様子を見る。口元を中心に顔面がはれ上がっていた。

 車外に放り出されたときに、顔面を強打したようだが、頭は打ってない。幸いだ。出血もあるが、意外と元気だ。「大丈夫だからね」と声をかけ、もう一度、ふくちゃんの方へ向かう。

 悲しくなるくらい大きな大きなこぶが、彼女の右後頭部にできていた。何度か、吐きもどすふくちゃん。

「覚悟しないといけない。頭を強く打っている・・・」ふくちゃんをはげます私。無言でうなづく、ふくちゃん。

 突っ込んできた車の運転をしていたおばさんは、事故現場の交差点のど真ん中で、声高に「私は、悪くない」「私は、悪くない」と叫んでいる。たまりかねたふくちゃんが、「救急車を呼んでください!」と叫ぶ。しばらくして、救急車。搬送される私たち。

 病院でのいろんな検査。私は、顔をすりむき、左足の甲を強打してねんざ。息子は、口を9針ほどぬう。いたいたしい。レントゲンの結果、鼻がひんまがっていた。成人近くにならないと矯正のための手術はできないらしい。

 ふくちゃんは、様子見。わたしの両手のてのひらでおおえるくらいの後頭部のおおきなこぶ。「覚悟しないといけない・・・」両足の甲は、バンパーのかたがくっきりとついていた。






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